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■ 変わりつつある医療過誤事件「第7回 医療過誤事件の現状(訴訟提起以外の選択肢)」

訴訟提起以外の選択肢

 示談が成立しなかった場合に訴訟以外の選択肢もない訳ではありません。簡易裁判所で行う民事調停,弁護士会などが行う医療ADR(大阪では民間調停センター),地方裁判所で行う医事地裁調停などです。いずれの手続も,第三者たる医師が手続に関与する方策が取られているようです。しかし,第三者たる医師の関与が手続の柔軟性を損ねている場合も少なくありません。

 例えば,医師・医療機関の責任が明らかな場合で,損害額の算定のみが争いの中心となっているケースでは,第三者たる医師の関与は殆ど必要がありません。また紛争解決に不慣れな医師が関与することによって,不必要な議論が強いられたり,多忙な医師が関与するため,なかなか期日が入らずに時間がかかるという弊害もあります。

 この点では,民事調停は,必ずしも責任が明らかではない少額事件では有効な手続ですが,責任原因が明らかなケースでは柔軟性に欠けます。ただ,保険会社に対しては,裁判所が主催しているということで,一定の説得効果が期待できます。

最近は各地で医療ADR組織が設置され,特に名古屋や東京などの医療ADRはかなり大きな成果を挙げていると聞いています。ただ大阪の医療ADRは,医師会や保険医協会などの医師組織が利用にあまり積極的ではなく,手続そのものに応諾しないことさえ少なくありません。この点についてはもう少し掘り下げた対策が必要かもしれません。とはいえ医療ADRも,必ずしも責任が明らかではない少額事件では有効な手続ですが,責任原因が明らかなケースでは柔軟性に欠けます。保険会社に対する説得効果という点では民事調停に劣ります。ただ,名古屋や東京などの医療ADRでは,責任原因が明らかなケースでは高額の解決もあるということですから,まだまだ改善の余地はあると思っています。

 最後に,まだまだ普及はしていませんが,私は医事地裁調停に注目しています。この地裁調停は,医療紛争に手慣れた医事集中部の裁判官が主催されることや,専門委員の資格を有する医師の専門的な見解を利用して双方の主張整理がなされるなど,医事に特化した裁判前手続として,利用価値が高いと思います。訴訟は究極的な医事紛争解決手段としてその有用性は否定できません。しかし,一審だけでも少なくとも2年程度の時間と,多くの費用(訴訟印紙代,弁護士費用,鑑定費用など)がかかる手続ですから,示談と訴訟の間により多くの紛争解決手続ができ,それらの手続が有効に機能する方が良いと思います。この点は,患者側だけでなく,医師・医療機関側に共通していると思います。

 この点で,特殊なのは刑事告訴手続です。刑事告訴手続は,医師や医療機関などの刑事責任の追及を警察・検察庁に求める手続で,必ずしも損害賠償を請求する手段ではありません。ただ,刑事責任がかなり明らかな場合は,この責任を軽くするために医師・医療機関が早期の示談解決に応ずるという点では,示談解決を側面から支援する手続であるとも言えます。とはいえ,医師・医療機関の刑事責任を追及するということは,医師・医療機関に基本的かつ重大な義務違反がある場合に限らねばならないと思います。なぜなら,医師の診療行為がいつも刑事責任の追及に曝される危険性があるということは,信頼を基本とする医師と患者の診療関係を極めてぎくしゃくしたものにするだけでなく,現在の捜査機関には,微妙な治療ミスの有無を判断するだけの専門性は欠けていると考えられるからです。

 次回からは,いよいよ医事訴訟についてお話しします。

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