医師,医療機関側弁護士の変化
医療過誤訴訟の増加に伴い,医師・医療機関側の弁護士にも大きな変化がみられるようになりました。以前は,医療過誤訴訟の医師・医療機関側の代理人を担当される弁護士は,限られた地域医師会の顧問弁護士さんなどが殆どで,医療過誤訴訟を職人的に扱っておられました。しかし,医療過誤訴訟の増加に伴い,限られた弁護士さんだけでは到底対応しきれなくなり,保険会社の代理人であった弁護士さんが多数,医療過誤訴訟にも参入されるようになりました。また,医療過誤訴訟の専門化に対応して,近年は医師資格と弁護士資格を有するダブルライセンスの弁護士も増えてきました。このような弁護士の増加により,医師・医療機関側の弁護士と患者側弁護士との間に医療情報について大きな情報格差が生じるようになりました。
患者側弁護士の変化
医療過誤訴訟の増加に伴って,一時は,日常的に一般民事事件を扱っている弁護士が多数,医療過誤訴訟の場に参入するようになりました。とはいえ,普段,医療過誤を全く扱っていない弁護士が,いきなり医療過誤訴訟を最前線で戦える訳ではありません。手術や治療を受けた患者の状態が悪くなったからといって,結果の悪さが直ちに医療過誤,医療ミスに繋がる訳ではありません。当該事案でどんな疾患が問題になり,どのような診断や治療をすべきであったか,そしてそのような診断・治療を行っていれば,間違いなく悪い結果になることが避けられたかどうかを特定することは,容易なことではありません。このため,担当弁護士に医療知識がないままに訴訟自体が漂流し,争点が分からないままに長期化する事案も続出しました。そこで,各地で医療過誤訴訟や医療問題を日常的に扱う弁護士の集まりである研究会,弁護団などが多数発足するようになりました。私も大阪の医療問題研究会の代表を長らく務めました。また医療ミスの内容を明らかにするために,患者側に協力して,医療知識を提供して頂ける医師(協力医)を確保するための手立ても充実してきました。
とはいえ,日常的に医療過誤訴訟を扱い,中には医師資格も有する医師・医療機関側の弁護士と,たまたま患者側の依頼を受けて医療過誤事件を扱うようになった患者側弁護士との間では,医療知識だけでも,大きな情報格差があるのは否定しがたい事実です。
また同じ患者側弁護士の中でも,たまにしか医療過誤訴訟を扱わない弁護士と,日常的に医療過誤訴訟を扱う弁護士との間でも,大きな医療情報格差が生じているのが現状です。次回は,このような裁判所,弁護士の変化を踏まえて現状についてお話しします。