医療訴訟の現状
国民の医療に対する期待が膨らむ中で,医療技術が進歩し医療はますます高度化して来ました。これに伴い,現実の診療の場においても,ミスがあったかどうかの判断も益々困難になってきました。このため裁判所は各地の地方裁判所に医事集中部という専門部を設けて,これに対処するようになりました。増加する医療訴訟に対応するため,医師・医療機関側の弁護士も専門化し,医師と弁護士というダブルライセンスを有する弁護士も珍しくなくなって来ました。患者側の弁護士も,研究会や弁護団を組織して,専門化に対応しようとしていますが,まだまだ道半ばと言ったところです。
そんな中で,実際の医療訴訟も,徐々に専門化されつつあります。
⑴ 弁護士の分化
交通事故訴訟では,ある事件の加害者側(被告側)の弁護士が,別の事件では被害者側(原告側)を務めることも決して稀ではありません。交通事故訴訟に造詣が深い弁護士が,別の事件で被害者側を務めることは,被害者救済にも役立ち,何ら責められることではないからです。勿論,加害者側弁護士はどこかの保険会社から依頼を受けて加害者側を務めていますので,例え別の事件であっても,同じ保険会社を相手として被害者側を務めることは利益相反になって許されません。しかし,そうでなければ大きな問題はありません。
ところが医療訴訟では,ある事件の医師・医療機関側(被告側)弁護士が,別の事件で患者側(原告側)を務めることは極めて稀です。なぜこのような状態になっているのかは必ずしも明らかではありません。しかし,沿革的に見ると,医療訴訟の医師・医療機関側の弁護士を務めておられた弁護士は,殆ど地域の医師会の顧問弁護士でしたから,同じ弁護士が患者側として医師会の会員医師を相手とすることは,当初から利益相反になっていたのかもしれません。この状況は,医療訴訟を保険会社から依頼される弁護士さんでもあまり変わらないと思います。なぜなら,元々,医療過誤事件を保険事件として扱う保険会社の数も少なくて利益相反が問題になる場合が多いだけでなく,保険会社から依頼を受ける弁護士さんも,実際の医療訴訟では実質的に医師・医療機関から依頼を受けて事件を担当するのですから,医師・医療機関を相手にはしにくいのではないかと思います。因みに患者側弁護士が,医師会や保険会社から医療訴訟を依頼されることは,この様な経緯もあり殆ど皆無です。
次回は,医療訴訟の特殊性についてお話します。
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