⑶ 医療訴訟の特殊性に配慮した対応とその結果
前回お話した医療訴訟の特殊性に配慮し,医療訴訟ではいろんな対応がなされています。先ず,ミスがあったかどうかを問題にするためにも,実際の診療の経過が明らかにならないと議論になりません。しかも,実際の診療の経過は,やはり医師・医療機関でないと明確にはわかりません。そこで,被告である医師・医療機関側に,早期に診療経過を診療経過一覧表として明らかにするように求めています。また,証拠についても,診療の経過を明らかにする証拠と,なされた医療行為が適切かどうかを判断するための文献や意見書などの証拠と,患者の被害や相続関係などに関わる証拠とを明確に分けて,原告側,被告側それぞれにA号証,B号証,C号証に分けて提出するように求めています。更に,事実を踏まえて原告側が医師・医療機関のどの行為をミスだと主張するのかを早期に明らかにさせるとともに,その主張に対応する反論を被告側に提出するように求めます。そして,このような主張の応酬を経た上で,これらの主張を争点整理表としてまとめさせ,あるいは裁判所自らがまとめます。その上で,患者や患者家族,担当した医師・看護師の証人尋問を行って,事実関係の争いに決着を付けます。しかも,この証人尋問も,以前は1人の証人に何日もの時間をかけたり,尋問を何週間にわたって行ったりしましたが,現在では,集中証拠調べをして基本的に1日ないし2日で尋問を終わらせます。またミスがあったかどうかの判断は,専門家の意見をB号証として,双方から随時提出させます。その結果,それまで殆どのケースでは,ミスがあったかどうかの判断が裁判所が選任する鑑定人に委ねられていましたが,今では,鑑定人が採用されるケースは訴訟件数のわずか5%程度ではないかと思います。このような対応の結果,医療訴訟の運営が飛躍的に改善されました。しかし今でも,一審判決までに2~3年が経過しているケースは少なくありません。因みに,ミスが明確に認められるようなケースでは和解で解決されるケースも少なくなく,訴訟件数の過半数は和解で解決されています。逆に和解で解決されないケースは,当事者双方が熾烈に争う事件が多く,判決にまで至った事件では,最近の勝訴率は2割程度に下がっています。