最近は、労働者が使用者に対して、残業代の不払いを理由に、時間外手当の支払いを求める事例が多く見られます。現在の日本社会では、原則として、労働者に一日8時間以上の労働をさせることは禁じられており(労働基準法32 条)、8時間以上の労働をさせた場合は、その残業時間につき、給与の25%から35%の時間外手当を支払わなければならないとされています(労働基準法 37条)。
この件に関しましては、その従業員が管理職であれば、労働時間規制は及ばないから残業代は支払わなくてよいとの誤解をしている方も見受けられます。そのような誤解は、労働基準法41条2号が、「監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」(「管理監督者」といいます)については、前述のような労働時間規制は及ばないと規定されていることに基づくと思われます。
しかし、ここでいう「管理監督者」は、一般的に用いられている「管理職」とは大きく異なる概念です。課長や部長といった地位につけば、一般的にはその人は管理職にあたるということになるでしょうが、必ずしも「管理監督者」にあたるということにはならないのです。
では、「管理監督者」はどのような人を指すのかというと、①事業の経営に関わる決定に参加し、労務管理についての権限も持っていること、②出退勤時間をはじめとする、自己の労働時間について自分の意志で自由に決めることができること、③その地位にふさわしい待遇(給与面などで)を受けていることというような要件をすべて満たす必要があると考えられています。つまり、自由な時間で働くことができ、管理監督者というにふさわしい給与が支払われており、会社の経営に一定以上の権限を有しているような社員であれば、労働時間規制を及ぼして、長時間労働から保護しなければならない必要性が低いという考え方です。
いわゆる「日本マクドナルド事件」において、東京地裁も、管理監督者に労働時間規制が及ばない理由として、「管理監督者は, 企業経営上の必要から, 経営者との一体的な立場において, 同法所定の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され, また, 賃金等の待遇やその動務態樣において, 他の一般労働者に比べて優遇措置が取られているので, 労働時間等に関する規定の適用を除外されても, 上記の基本原則に反するような事態が避けられ, 当該労働者の保護に欠けるところがないという趣旨によるもの」としました。
そしてその上で、マクドナルドの店長は店舗の人事管理等に関与してはいるものの,勤務実態からして労働時間に関する自由裁量があったとはいえず,また,店長より下の地位にあり時間外労働の割増賃金が支払われるファーストアシスタントマネージャーより店長の年収が少なくなるという逆転現象もしばしば起きること等から、管理監督者の地位にふさわしい待遇があるとはいえず、マクドナルドの店長は管理監督者には該当しないと判断しました
以上から分かるとおり、事実上「管理監督者」にあたるような労働者は非常に少数にとどまるのではないかと考えられます。
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