医療の飛躍的な変化,進歩に伴って診療内容が高度化するにつれ,ミスがあったかどうかを最終的に判断する場である裁判も大きく変化してきました。ミスがあったと訴えられた診療科において,どんな疾患が問題になって,それをどんな方法で診断し,どんな方法で治療すればよかったかは,誰かがこれを明らかにしなければなりません。本来,これを明らかにするのは,医師・医療機関側の役割なのかもしれません。しかし,ミスがあったと訴えられている医師・医療機関側にそれを求めるのは,ミスをしたと自白を迫るようなもので酷なことは明らかです。といって,その他の医師・医療機関でこの役割を果たせるものが,少なくとも現時点では日本にはありません。では,ミスを受けたと主張する患者側にそれが出来るかというと,それにも大きな限界があることは明らかです。このため,医療過誤事件が増加するにつれて,全ては鑑定で決着させようという流れになったのは避けられないことだったのかもしれません。その結果,医療過誤事件は,どこの裁判所でも,最終的には鑑定任せの手数のかかる厄介な事件となり,医療過誤訴訟が長期化,滞留するようになりました。
医療過誤訴訟の長期化,滞留という事態を受けて,裁判所は平成13年4月に東京・大阪に6ケ部の医事集中部を設けたのを皮切りに,名古屋,千葉,福岡,札幌,さいたま,横浜の8地方裁判所に順次医事集中部を設けました。医事集中部を設けて,医療過誤訴訟を専門訴訟にし,担当する裁判官を固定化したのです。また,医療過誤訴訟長期化の一因となった鑑定人の選定を容易にするため,平成13年6月に最高裁に医事関係訴訟委員会を設け,医学界の協力も得てその後,高裁,地裁レベルで数多くの鑑定人推薦,選任システムを設置しました。各地で設置された医事集中部では,医療過誤訴訟の審理を充実,促進させるため,医師・医療機関側に,診療経過の概要を先ず明らかにさせることとし,患者側にも診断,治療の過程のどの部分にどのようなミスがあったのかを早期に明らかにさせるようになりました(争点整理手続)。そして,証人尋問等の証拠調べをほぼ1期日(場合により2期日)に集中しました(集中証拠調べ)。こうして,医療専門家の意見を聞かないとミスがあったのかどうかを判断するのが困難な,厳選された事案だけに鑑定手続を採用するようになりました。その結果,長期訴訟の典型であった医療過誤訴訟は,1審の審理期間が約2年程度にまで短縮化されるようになったのです。
次回は,このような裁判所の変化を受けた弁護士の変化についてお話しします。
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