損害保険会社が,違法な不払い問題で追及されたのは,まだ皆さんの記憶に新しいところだと思います。あれだけ追及を受けたのだから,保険会社ももう態度を改めているだろう思われるのは当然です。しかし,日々,交通事故の被害者の賠償交渉に当たっている立場からすれば,この認識は決して正しいものではありません。
交通事故の賠償額の算定基準については,自動車損害賠償責任保険(いわゆる強制保険) の基準,任意保険の基準(保険会社の内部基準),裁判実務の基準,各種の弁護士会の基準などがあり,この順で後に来る基準の方が金額が高くなっていることはご存じだと思います。そもそも,強制保険は,自動車事故の被害者に最低限の補償を与えるものとして保険契約の締結が強制されるものですから,それとは別に締結される任意保険の基準が,強制保険の基準と同じであれば,任意保険を締結する意味などないはずです。
ところが,保険会社の賠償実務では,この任意保険の基準が極めて低く設定されているところが少なくありません。保険会社の中には,強制保険の基準と全く同じ基準で賠償額を算定した上で,特別な配慮で若干の上乗せをしたといって,いかにも被害者の利益を尊重しているような姿勢を見せて賠償交渉に臨むところまであります。
このようなケースで示談交渉の依頼を受けた場合は,賠償額の上乗せは極めて容易です。なぜなら,このような被害者にとって著しく不利な示談額を提示した保険会社は,相手方が弁護士だと,そんな非常識な説得は全く通用しなくなることを知っているからです。弁護士を相手にそんな低額な提示を続けておれば,すぐに訴訟提起がなされて,結局,予想外に多額の支払いを命ぜられることを彼らは知っているからです。
弁護士が代理人になると,賠償額の算定基準が変わるということは,我々弁護士にとっては好ましいことかもしれません。しかし,保険金を請求する者によって,保険金額が大きく変わるという賠償実務は決して公正でも,公平でもないと思います(事例によっては2~3倍になる場合も少なくありません)。
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