カルテの証拠保全
 調査に必要なカルテ等を入手するには,以前は,カルテ等が改竄・廃棄される恐れが高いとして,裁判所の証拠保全手続を利用することが一般的でした。しかし,最近では,カルテの改竄が懸念される医療機関(主として開業医や,全面的なカルテ開示に応じようとしない医療機関)に対してだけ,証拠保全をするのが,一般的になってきました。このような大きな変化が生じた理由としては,以下の要因が考えられます。まず,カルテに記載された診療情報が個人情報として,開示するのが法律で強制されるようになったことです(個人情報保護法第28条)。また,行政(厚生労働省)が,患者以外の遺族などからのカルテ開示の要請に対しても,積極的に応ずべきことを定めたガイドラインを定めたことも大きいと思います(診療情報の提供に関するガイドライン)。この他,自治体病院をはじめ大規模医療機関では,カルテ開示に解する条例・規則や内部規則を定める所が増加しました。更に,診療の内容を記載する手段として電子カルテが普及し,診療内容自体も種々の検査記録や画像所見に依存するものとなり,カルテの記載を簡単に改竄することなど到底出来なくなってきたことも,理由として挙げられると思います。
 
事件の立件率
 調査を遂げた上で,示談交渉をし,提訴するに値する事件かどうかを判断するとともに,賠償請求するとしてどの程度の金額を請求し得るのかを判断します。調査をした全案件の中で,どの程度の件数で,ミスがあったとして賠償請求に移行したかの確率(立件率)は,一様ではありません。私の場合は,同業者(弁護士)からの紹介事件も少なくないので,約60%程度の立件率ですが,一般的には約50%程度の立件率だと言われています。私の場合は,ミスの可能性がある案件だけについて,ほぼ全件で調査をしていますので,立件率が高く出ているのかもしれません。
 ここで,ご注意頂きたいことは,調査を経た上で立件出来ないと判断せざるを得なかった案件でも,調査のための手数料と費用は取り戻すことができないという事実です。調査しても必ず医師,医療機関の責任が問える訳ではありません。この事実を不合理だとお考えになる方には,調査はお勧めできません。医療ミスがあったかどうかは,患者やその家族にとって極めて重大な事実です。ミスがあったのではないか,患者が不当な扱いを受けたのではないかと思うこと自体がつらいことでもあります。調査の結果,少なくとも患者が不当な扱いを受けていない,医師・医療機関がきちんとした医療を施してくれたことが分かっただけでも良しとする人にこそ調査をお勧めしたいと思います。
 次回は,事件を立件することを前提に,事件の交渉による解決についてお話しします。